ブランクーシのアトリエ、大判カメラへの誘惑

L'Atelier Brancusi

Leica IIIa, Summicron f = 5cm 1:2, KODAK EKTAR 100

パリの近代美術館であるポンピドゥセンターの脇に、まるで隠れ家のような美術館、ブランクーシのアトリエ (L'Atelier Brancusi)がある。

コンスタンティン・ブランクーシ(Constantin Brâncuși)は、パリを中心に活躍した20世紀の彫刻家で、非常にシンプルで抽象的な彫刻を数多く残している。

彼の代表作である「鳥」を一目見てから、一気にブランクーシ・ファンになってしまった。「鳥」を初めて見たときには、何の彫刻なのかはすぐにわからなかったのに、一度「鳥」と聞いてしまうと、もう「鳥」にしか見えない。極限まで単純化されているけども、「鳥」として認識しうるに十分なフォルムを持っている。本当に「鳥」というエッセンスのみを抽出したような作品だ。ちなみに「雄鶏」という作品もあり、こちらも見事に抽象化されている。初めて見たときには、あまりによくできていて思わず笑ってしまった。

ブランクーシは、自身の作品を自ら撮影し、アトリエに暗室まで設けていたことが知られている。しかもその手ほどきをしたのが、かの有名な写真家マン・レイ(Man Ray)だったという。

ニューヨークからパリに来たばかりのマン・レイは、ある日、ブランクーシのアトリエを訪ねた。すぐに作品の魅力に気がついたマン・レイは、自分に作品を撮らせて欲しいとブランクーシに頼んだのだけれども、なんと、ブランクーシはその申し出を断り、その代わりに写真撮影に必要なカメラ等の購入から、暗室の設置、そして写真術を手ほどきしてもらえるように頼んだという。

こうしてブランクーシは、単に自身の作品の記録としての写真だけでなく、彫刻作品の写真という、もう一つの美術品をも生み出した。現在でも、約1250枚のプリントと、主にガラス乾板で撮影された560枚ほどのネガティブが残っている。

冒頭の写真は、アトリエの中に設置されている、おそらく大判カメラ。その足元にもフィルムあるいは乾板フォルダらしきもの、さらに別のカメラが置いてある。

このアトリエを見てから、自分でも大判カメラを使いたい衝動に駆られている。同じカメラが手に入らないものかと、パリのアンティークカメラ屋を訪ねたが、この写真だけではわからないと言われてしまった。アメリカ帰りのマン・レイと一緒に買ったとなれば、ディアドルフかと思ったが、彼がパリに来たのが1921年で、ディアドルフがカメラ製造を始めた1923年と、わずかにずれる。しかも、ネガのほとんどがガラス乾板ということは、フィルムを前提としたカメラではないだろう。

詳しい方がいましたら、是非ご教授願いたい。

© 2016 SAKAI Hiroshi